「イエス伝承」の批判的分析・解釈の試みは長らく行なわれてきた。今回の私どもの研究ではそれを総括的に吟味し、新たな視点を獲得しようと試みる。 まず、そのためのツールとして、数色の彩色を施して共通部分を観察しやすくした、ギリシャ語および日本語によるコンピューター用「共観表」を作成中である。そのうちギリシャ語によるものは、大部分できあがった。やがては一般の研究者が利用できるものにしたい(CDRomなど)。日本語のものはこれからであるが、一般読者の入手できる形態(書物およびCDRom)にする計画である。 また、古典伝承の形成・発展という主題では、他領域の研究や問題提起が多大な刺激になった。最終的にはイエス伝承の変容力学を批判的に明らかにし、他の「古典」領域の伝承研究との比較研究にまで達したいと考えている。その際の最大の問題の一つは、なぜあれほどの数の「非真正な」イエス伝承が二次的に誕生したか、その力学は何か、という問題である。それには記憶に基づく「想起」という要請と、そのイエスを「象徴化」してある主張・思想を貫徹する要請、更にはイエスが憑依するとでも言うべき独特の心理状態からの伝承形成などの要因があることが分かった。
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