1.これまで進めてきたソクラテス・プラトン研究を総点検しながら、ソクラテスからプラトンへの倫理思想の展開を改めて追跡し、その意義を確認する作業を行なった。すなわち、ソクラテスの倫理説「徳の一性」「快楽主義」等、その主要な問題点との関連で再検討することによって、彼の基本的立場が実際どのようなものであったか、そしてソクラテスの倫理説のはらむ難点についてプラトンがどのように反応し、どのような倫理理論を展開してそれに対処しているのかを考察し、ソクラテスからプラトンへの移行が<自己>の問題から<他者>の問題への重心の移行であること、しかしそれにもかかわらず、プラトンの正義論にはソクラテスにおける<自己>の概念がきわめて重要なかたちで含まれていることを見届け、さらにプラトンの正義概念が、その基底においてソクラテスの「無知の自覚」と結ばれていることを明らかにした。この研究成果は、今後まとまったかたちで公表したいと思う。 2.言明の真偽のみならず、語の真偽までも射程に入れるプラトンの言語哲学の諸問題を、<善>の概念を視野に入れた彼独自の真理論との関連から考察することを試みている。これは現在も作業中であるが、その成果の見通しは、「古典学再構築」A04班「古典の世界像」第4回研究会で報告する予定。 3.アリストテレス『ニコマコス倫理学』の翻訳は、現在全巻の訳出を一通り終えた段階。今後訳文の推敲を重ねるとともに、訳注の作業にとりかかる。
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