研究概要 |
本研究の目的:文献学的手法により、最初期仏教思想の解明につとめる。 本年度の研究実績: (1)仏典として現存最古の伝承を伝えるとされる『スッタニパータ』に関して,4層が区別されること、I層はアショーカ王以前の孤独な遊行生活、II層はアショーカ王当時の僧団生活、III・IV層は「ニカーヤ」編纂当時の大教団生活を反映すること、II層以降では思想の体系化が順次進行することは、既に昨年度に指摘した。('An analysis of the Suttanipata : Recovering the most ancient portions of the Buddhist Canon.' The Way to Liberation誌で印刷中)。 (2)インド古典テキスト・データベースを用い、最初期仏典の思想をバラモン教思想の発展中に位置付ける作業を行った。ブラーフマナ期(紀元前8世紀)から、インド人の理想であった死後の天界への再生の為には単に祭式を行なうだけでは足りず、個人の「意欲」が必要とする考えが現われて来たが、ウパニシャッド古層に至って天界の絶対的生命力が喪われるとともに「意欲」の評価も逆転し、「欲望」と見なされて、有限な幸福を保証するに過ぎないものとされるに至った。上記の手続きによって確定した仏典の最古層(I層)は、これを受けているが、さらに思想を発展させて、祭式儀礼そのものを不要と見なしてしまった。このようにバラモン思想からの発展を極めて明確に跡付けることができる. (3)A04「古典の世界像」班は「魂論」を共通のテーマとしたので、「ブッダの魂論」を研究成果報告集に寄稿した。ブッダとプラトンは共に現実世界を越えたところに理想の世界を求め、それを獲得するよう厳しい訓練を行なわなければならないとしたことは共通している。両者の違いは、プラトンが言葉と理性によって理想の「イデア」世界を認識するとしたのに対して、ブッダは潜在欲望に支配される言葉に対する不信を述べ、孤独の遊行と瞑想によるとしたことである。
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