当研究班では、これまで1)ベネディクト派修道会の活動を中心にフランス古典主義時代における「文学史」という概念の成立(多賀)と2)百科全書派ならびにその周辺における「文学研究」の成立(中川)とを研究してきたが、今年度は1)では文学史と個人の蔵書や図書館の関係、2)では文学研究と修辞学や美術批評などとの関係というように従来の研究を側面から支えるような調査を開始した。 1)17世紀から18世紀のフランスにおいて、「文学史」という概念はある意味で「古典」という概念と対立する面を持っていた。ベネディクト派による「フランス文学史」は「できる限り多くの資料を、できる限り多くの著者について盛り込もう」という精神で編纂されており、一国や一地方の歴史資料を編纂するのと同様の方法が適用されていた。一方当時多く書かれていた蔵書指南書の類では、「選ばれた著者の選ばれた著作をできるだけ優れた版で集める」ことがめざされており、対象となる著者はほとんどが古代の著者であった。前者が記録としての知の集積であったのに対し、後者は限定された数の書物が世界の知を代表するという古典主義時代の「表象/代行」システムに則っている。やがて18世紀後半からは、自国の過去の作家たちに対する注釈や評価が行われ、その結果として「フランスの古典」という概念が成立して19世紀へとつながる。 2)18世紀に成立する「文学研究」は、「修辞学」とは異なった性格を持っていた。すなわち、テキストを構成する様々な要素を個別化し、それに従ってテキストを批評するという方法は、あらかじめ設定された状況や目的にそって規範化されていた従来の修辞学とテキストの関係をある意味で逆転させており、1)においてと同様18世紀の19世紀に対する先駆性が確認できる。またこのことは文学以外の領域、とりわけ絵画批評におけるディドロの仕事などとも深い関係にある。
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