研究概要 |
本研究では,我々が豊富な経験を持つ分子線エピタキシーの手法を用いてフラーレン及びアルカリ金属/有機分子ドープフラーレンの単結晶薄膜・超格子・微細構造を作製し,固有の物性を追求することを目的としている。特に,ヘテロ薄膜に対する基板の影響に注目し,(1)基板がフラーレン薄膜の格子定数・物性に与える影響,(2)基板-薄膜間の電荷移動量決定,(3)π電子系-半導体表面相互作用の定量的解明,(4)選択成長法によるフラーレン微細構造の作製,といった研究を行う。本年度は以下のような成果を得た。 まず,フラーレンなどの有機分子薄膜成長機構を考察する際に重要なパラメーターである,蒸発源から発生する分子線の速度分布を,飛行時間計測型質量分析計を用いて測定することに成功した。現在同じ装置を用いて,C_<60>分子の基板上での滞在時間を求める実験を進めている。次に,カリウムをドープしたC_<60>エピタキシャル薄膜の電子エネルギー損失スペクトル測定を行い,ドープ量がC_<60>分子,及びカリウムの電子状態に対して与える影響について詳細に調べた。その結果カリウム原子の配位状態がそれらの電子状態を左右していることを見出した。一方,Si(111)清浄表面及びAg吸着Si(111)表面上でのC_<60>薄膜の電子状態を電子エネルギー損失分光法により測定し,従来不活性といわれてきたAg終端基板上でも,C_<60>分子と基板間に電荷移動が存在することを発見した。C_<60>微細構造形成については,CaF_2(111)表面を電子線で改質することにより,幅200nm,深さ50nm,長さ1mmにわたるC_<60>分子細線を形成することに成功した。
|