本年度は、単層カーボンナノチューブの薄膜試料の作製を行い、光学吸収スペクトルを測定し、単層カーボンナノチューブにおける一次元励起子効果を明らかにした。主な結果は以下のとおりである。 1.三重大学斎藤弥八助教授らのグループにより合成された、NiY触媒の単層カーボンナノチューブススを用いて、薄膜試料を作成して、その吸収スペクトルとその温度依存性を測定した。吸収スペクトルには、単層カーボンナノチューブに起因する吸収バンドが近赤外〜可視領域に観測された。これらの吸収ピークには顕著な温度依存性は無かった。item実験で得られた吸収スペクトルには、直径やカイラリティーが異なる様々なナノチューブからの寄与が含まれている。そこで、試料中のナノチューブの直径分布を考慮した、試料の状態密度および結合状態密度を強結合近似を用いて計算した。実験と計算の比較を行い、強結合近似における最近接炭素間の重なり積分を2.75eVと決めた。 2.上記の計算の結果、吸収スペクトルに現れたピークは、低エネルギー側から、半導体的なチューブの第一ギャップ及び第二ギャップ間遷移と、金属チューブの第一ギャップ間遷移に対応することが、吸収端に現れる半導体第一ギャップによる吸収バンドは、計算結果より実験結果は高エネルギー側に現れていることがわかった。これは、安藤等による計算を考慮すれば、励起子による効果であると考えられる。 3.単一のチューブを選択励起し、チューブの一次元電子状態をより詳細に調べるために、単色のレーザーを用いて、「ホールバーニング分光」を試みた。しかしながら現在のところ、選択分光には成功しておらず、試料の温度上昇による吸収スペクトルのわずかな変化が観測されたのみであった。
|