研究概要 |
フラーレンを用いた強磁性体は,TDAEと組み合わせた系が,転移温度も高く有名である.この系は,発見されたのは古いが,ほんとうに強磁性であるかという点に問題があり,ごく最近まで多くの議論があった. 最近になって,単結晶による研究が可能になり,強磁性という点は確立したが,強磁性の起源については,まだ研究が進んでいなかった. 我々のグループは独自に単結晶試料を作成する手法を開始し,ESR測定,SQUIDによる磁化測定と低温X線構造測定を手段として研究を開始した. まず今年度の目標は,強磁性の起源を明らかにすることであった.我々の試料は作成方法が他のグループとは異なり,C60とTDAEの直接反応によって得られる.試料はX線によって単結晶であることを確認しながら研究を行っているが,冷却温度サイクルによって試料の劣化が起きることがあり,取扱いが難しい. 我々は,本年度,試料のアニールの効果が,磁性に与える影響を研究し,アニールした資料で構造変調が現れることを新たに見いだした.このアニールによる変化は,ESRによっても確認することができる.系の構造変化は180K付近以下で現れ,2次相転移的である.このことは低温の構造は,C60分子の秩序だった配列により,軌道オーダーすることで強磁性を生じるという理論的予測に対応するのではないかと考えられる. この結果に基づけば,他のフラーレン分子(たとえばC70)でも分子配列によっては,強磁性が出現できる可能性がある.今後の研究の目標は,このような方向で新しい強磁性体を探索することになるであろう.
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