研究概要 |
本年度は,1.高純度ナノチューブの大量合成法の開発,2.フラーレンを内包したナノチューブの作製と光物性測定を行った. 1.高純度ナノチューブの大量合成法の開発 レーザー蒸発法では,精密な直径制御が可能であり,非常に優れたナノチューブ生成法であるが,残念ながら生成量が極めて少ないことが問題である.そこで,レーザー蒸発法により,大量にナノチューブを合成する手法を開発した.レーザー蒸発法では,単純にスケールアップすると,生成条件が変化してしまうため,収率が思うように上がらないが,触媒濃度,ガス圧,ガス流速,レーザー光強度をそれぞれ最適化することにより,収率をそれほど下げずに,収量を5mg/hから60mg/hと1桁以上アップすることに成功した. 2.フラーレンを内包したナノチューブの作製と光物性 カーボンナノチューブの内部には空間があり,そこにフラーレンをはじめとする各種分子や結晶を挿入することが可能である.我々は,内包分子のサイズに合わせて,直径を制御したナノチューブを準備し,それを高純度に精製した.この高純度ナノチューブとフラーレンを用いて,フラーレンを内包したナノチューブ試料を作製した.この試料の共鳴ラマン散乱,光吸収スペクトル,高分解能電子顕微鏡観察,電子線回折の結果から,ナノチューブ内部のフラーレンの状態について調べた.その結果,C60の場合は,内部で自発的にダイマーを形成していることがわかり,これは室温でレーザー光を照射することにより,たやすく1次元ポリマー化することがわかった.一方,C70の場合は,ダイマー化やポリマー化は起こらず,その代わり,ナノチューブ内で短軸方向をチューブ軸にそろえて並ぶ配置をとりやすいことがわかった.これらの異常な振る舞いは,フラーレン内包によるポテンシャルエネルギーの利得が生み出すナノチューブ内部の高圧状態により説明可能である.
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