研究概要 |
最近注目を集めている、ScとN原子を合計3個あるいは4個内包したフラーレン、Sc_3@C_<82>、Sc_4@C_<82>およびSc_3N@C_<80>の構造と電子状態を理論計算により明らかにし、金属原子を1個あるいは2個内包したフラーレンとの比較を行った。また、電子密度のトポロジカル解析により、内包金属とフラーレン、内包金属間の結合の性質を明らかにした。 (1)Sc_3@C_<82>:一般に、フラーレンに中性のものを入れてもほとんど相互作用ができない。これに対し、アニオン状態のフラーレンの内側は、カチオンを静電的に大きく安定化する興味深い性質を持っている。このためSc_3は合計6個の電子をC_<82>に渡して(Sc^<2+>)_3C_<82>^<6->の電子状態になる。このことは、電子密度のトポロジカル解析からも裏付けられる。この結果Sc^<2+>は互いの静電反撥を避けるためにSc-Sc距離は中性のSc_3クラスターよりも長くなる。これらの3個のSc^<2+>は、ケージに沿って回転運動をしている。総数37,719個におよぶC_<82>フラーレンの異性体の中には、空フラーレンで確立されてきた孤立五員環則を満たさないにも関わらず、3個のScを内包すると大きく安定化するケージ構造があることを明らかにした。 (2)Sc_4@C_<82>:Sc_3@C_<82>にさらにもう1個Sc原子を内包しても、Scは2個ずつの電子をC_<82>に渡して(Sc^<2+>)_4C_<82>^<8->の電子状態になる。しかし4個ものSc^<2+>がC_<82>に閉じ込められているので、静電反撥が極めて大きくなる。 (3)Sc_3N@C_<80>:Scの代わりにN原子を内包すると、電子状態は(Sc_3N)^<6+>C_<82>^<6->になる。また、Sc-N間に静電引力が働くのでケージ内のSc-Sc間の反撥が軽減され、Sc_4@C_<82>とは対照的に安定な分子となる。
|