研究概要 |
磁性を担うd電子と伝導を担うπ電子とが、共存かつ相互作用する、いわゆるd-π相互作用は、これまでに見られなかった全く新しい複合電子系を構築し、様々な興味深い物性が発現されるものと期待されている。本特定領域研究に於いて我々は、新たなるπ系ソースとしてのC_<60>に着目し、これまでTTFなどの有機伝導πドナー系では見られなかった、新しいd-π相互作用を発現させる系の構築を試みた。具体的には、ポルフィンリンやフタロシアニン、各種アヌレン類、ベンゾキノンジオキシム、ジフェニルグリオキシムなど、一連のテトラアザ(N_4)マクロサイクル金属錯体を用いたが、その理由として、これらがこれまでに様々な物質と電荷移動錯体を形成しており、中心金属の異常原子価を安定させ、同時に低次元性を安定させる働きも備え持つためである。我々は、C_<60>の酸化還元電位とほぼ同程度の値を有するクロムマクロサイクル系に着目し、C_<60>との間で(部分)電荷移動錯体の構築を試みた。また、中心金属がFe,Co,Ni,Cu,Ru,Pd...などの遷移金属を含むOEP(オクタエチルポルフィリン)及びTPP(テトラフェニルポルフィリン)とC_<60>との化合物を合成し、それらの構造を詳細に解析したところ、PdOEP・C_<60>化合物およびCuOEP・C_<60>化合物では、ポルフィリン平面に対してエチル基がtrans配位した構造を有していることが分かった。これまでのそのような配置をしている化合物は報告されておらず、今回の研究が初めての例である。また、ポルフィリンとC_<60>との間には強い相互作用が見られ、磁化率の温度依存性がenhanceされていることから、C_<60>との間で電荷移動が生じている可能性があることが示唆された。
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