本年度はクラスレート物質の特定の部位に遷移金属を導入した物質について合成方法を検討して、その物性を調べた。最初にSiおよびGeクラスレート結晶に、d-およびf-電子系の元素を導入して、伝導電子と磁性電子との相互作用を利用した特異電子状態への変化を示す物質系を探索した。そのために、SiおよびGe系クラスタ結晶へ、まずAuを導入した場合の電子物性の影響を詳細に検討した。その結果、Auの存在により半導体から金属物性へと物性の変化をおこす事を確認した。これは、構造の完全性がAuの導入と密接に関係している事に起因している。また、この様子は、観測される物性変化と超格子の存在の関係からも明らかにされた。この状態では、Auはその電子親和力のために、電子キャリアを捕捉して-1価の価電子状態をとるものと理解される。さらに研究を進め、磁性遷移金属元素としてMnおよびCeを導入する事に成功した。また、磁気物性を検討したところ、それぞれ6.5Kおよび16Kで強磁性状態への相転移を示す事が明らかになった。この様な電子スピン配列相への相転移は、本研究を始める前に描いていた、伝導電子-磁性電子間の相互作用を介するものであると考えられる。今後、遷移金属を導入したクラスレート結晶については、結晶解析を高エネルギー研究所の放射光施設を利用したX-線構造解析により決定する予定である。また、d-およびf-電子系元素を導入したSiおよびGeクラスタ結晶の構造は放射光施設を利用して精密に決定し、電子スピン配列に関する機構に関しても考察を進めていきたい。
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