(1)カーボンナノチューブの成長過程のシミュレーション:単層カーボンナノチューブの成長過程を理論的に解明するため、根元成長モデルに基づいた分子動力学シミュレーションを行った。炭素原子間の相互作用としてTersoff-Brennerポテンシャルを用い、基盤のニッケル金属原子と炭素原子間の相互作用としては、第一原理計算の結果を参照して、モデルポテンシャルを作成した。基盤に突起の存在を仮定し、この突起にチューブの種(フラーレンの一部を切り出したもの)が付着し、その根元から成長するという状況設定のもとで成長のシミュレーションを行った。アームチェア型5x5と10x10、およびジグザグ型15x0のシミュレーションを行った。いずれの場合も、基盤との相互作用が大き過ぎると、根元で7員環や8員環など負の曲率をもつ員環が成長し、成長が妨げられる。一方相互作用が小さ過ぎるとクラスターが基盤からはがれてしまうという結果が得られた。相互作用が適切な場合は、ある程度チューブが成長することが確かめられたが、途中まで成長すると、5員環や7員環などの欠陥が6員環に修正されない限り成長が止まってしまうという結果を得た。 (2)カーボンナノチューブ系の誘電関数の計算:カーボンナノチューブおよびフラーレンを内包したカーボンナノチューブを束ねた結晶の誘電関数を計算した。強い双極子選択性により、誘電関数は強い異方性を示す。チューブにおいて、実験で知られている吸収係数のピーク(0.7eVおよび1.2eV付近)は、チューブ軸に平行な電場を持つ光による吸収であることを確認した。フラーレンを内包したチューブでは、それぞれが単独に存在する時の吸収に加えて、新たに許容される遷移(0.5eV以下や2eV付近)などが特徴的に現れることを発見した。
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