研究概要 |
本研究は、フェムト秒超高速レーザー分光を用いたファン・デル・ワールス(vdW)錯体の光解離の実時間追跡に基づいた新しい遷移領域分光法を開発し、これをHg-COvdW錯体およびHg-H_2vdW錯体に適用することによって、(1)衝突エネルギー移動:Hg^*(^3F_1)+CO(v,j)→Hg^*(^3F_0)+CO(v',j')や(2)化学反応:Hg^*(^3F_1)+H_2(v,j)→HgH(X^2Σ^+,u,j)+Hの途上における電子-核運動間のエネルギー変換を直接観測すると共に、これを、強度変調および周波数変調を施した超短レーザーパルスによって制御することを目的としている。まず本年度は過程(1)を対象として研究を行なった。(1)の始状態に相関をもつAおよびB状態ポテンシャル上に発生した核波束が、終状態に相関をもつa状態ポテンシャル面への非断熱遷移を経て消失する様子を実時間追跡する事に成功した。これはvdW相互作用下での分子間エネルギー移動に伴う核波束運動を観測した世界で初めての例である。また同様に、溶液反応で重要な溶質-溶媒間エネルギー散逸の初期過程を可視化した最初の例であると言う事もできる。観測された核波束運動から(a)A→a遷移、B→a遷移とも20ps程度の時定数で進行する、(b)B→a遷移はHg原子とCO分子の最近接点で起こる、(c)HgとCOが14回接近するにつき1回の割り合いでB→a遷移が起こる、(d)Hg-CO間の動径運動およびCOの回転運動が非断熱結合を誘起する、等の多くの重要な動力学的知見が得られた。さらに、測定結果からB状態ポテンシャルの形状を見積もり、このポテンシャル上での波束運動を量子力学的にシミュレートする事によって、周波数変調パルスや位相ロック二重パルスが非断熱遷移過程の効率を操作し得る事を予測し、後者の二重パルス制御の有効性を実験的に検証した。
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