研究概要 |
本研究では,(1)気相の反応試剤を「集合化」によって修飾することにより,反応のメカニズムがどのように変化するかを調べ,(2)「集合化」を用いて気相反応の断面積・分岐比を制御するためのストラテジーを開発することを目的とし,以下の研究を行なった. 1.装置の開発 集合化した気相反応試剤,特に気相クラスター負イオンを対象とした詳細な衝突反応実験を行なうために,、クラスター負イオン源,タンデム型質量選別装置,衝突反応装置,レーザー光電子分光計,レーザー光解離分光計から構成される装置を設計・製作した.さらに,光パラメトリック発振レーザーシステムを整備・拡充し,レーザー光電子分光法,光解離分光法の感度の向上を図った. 2.反応試剤の構造修飾と評価 反応試剤となる負イオンの周囲に溶媒和環境を造り,電子構造・幾何構造の修飾の様子を評価した.例えば,(CO_2)_n^-,(CO_2)_m^-(H_2O)_n(CH_3OH)_k,O^-(NO)_nについて光電子スペクトルを測定し,その電子構造を評価した.また,ab initio計算を併用し,反応試剤の幾何構造・電子構造に関する情報を得た. 3.単分子溶媒和系の光解離 気相における電子過剰型ポリハロゲンI_3^-の光吸収スペクトル,光解離質量スペクトルを測定し,光解離の分岐比に極めて顕著かつ系統的な単分子溶媒効果(唯ひとつの分子が溶媒和したことによって引き起こされる溶媒効果)を見出した.この結果は,凝縮相におけるI_3^-の光解離メカニズムに対して分子レベルの情報を与えると共に,溶媒効果による光解離の制御に繋がるものである. 4.クラスター内ラジカル反応 (CO_2)_n^-とアクリロニトリルとの反応によって,クラスター内ラジカル重合の開始剤として有効に作用するdistonic radical anion^-O_2CCH_2-CHCNが生成するプロセスを見出した.
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