本研究は、メタンをはじめとした飽和炭化水素の金属表面での光反応を中心として、特に、吸着種の電子励起状態の分光学的な同定と、さまざまな金属表面、あるいは、吸着サイトを利用することにより、吸着種がおかれる反応場によってどのように光反応が影響を受けるかという点を解明することを目的として研究を行った。 これまでメタンがPt(111)、Pd(111)表面において6.4eVの光照射によってメチルと水素に解離、および、光脱離することを見出してきた。そこで、本研究では、NiAl(110)上に準備した平坦なアルミ酸化物の上にパラジウムクラスターを生成させ、この上でのメタンの吸着状態を昇温脱離、X線光電子分光を用いて調べ、更に、その光反応を観測した。その結果、この表面においてもメタンは6.4eVの光照射によって解離、脱離をすることを確認したが、特に、その反応分岐比に明瞭なクラスターサイズ依存性があるという特徴的な現象を見出した。 また、Cu(111)表面におけるメタンの光化学も行った。この表面は、Pt(111)等の表面と異なりd電子帯はすべて占有されているが、この表面でもメタンの光反応が起きることが明らかになった。特に、単にメタンがメチルと水素に解離するだけではなく、炭素-炭素結合が光化学的に誘起され、エチレンが生成することを見出した。これに対して、Ag(110)表面においてはまったく光反応が起こらなかった。これらの実験から、金属の非占有sp電子帯が光化学に重要な役割を果たしているが、生成物であるメチルや水素原子と基板金属原子との結合の強さが、光反応の効率に大きく影響しているということが明らかになった。
|