本研究では、第一遷移系列金属イオンの配位化合物の反応性を解明するために、イオン結合性が強い配位化合物の反応を対象とした。本年度は、特にアンモニア交換反応に焦点を当てて研究を行った。 カルシウム(II)、スカンジウム(II)およびチタン(II)の場合は、七アンモニア和状態はエネルギー極小状態である。これは、d^0、d^1、d^2のときには、非結合性軌道までしか占有されず、一方、これらの軌道に対応した結合性軌道は常に占有されているためである。ところが、さらに一個電子が多いバナジウム(II)になると、反結合性軌道が占有されるため、七配位状態の性格が変わり遷移状態となる。占有された反結合性軌道と金属原子の4s軌道との間での遷移密度が生じるが、これは遷移ベクトルと同じ対称性を持っており、このような変形によってエネルギーが低下する。すなわち、[V(NH_3)_7]^<2+>では、七配位状態がもはやエネルギー極小構造としては不安定となる。さらに、電子が一個多いクロム(II)になると、もう一種類の半結合性軌道が占有されるため二次の遷移状態となる。 それぞれのイオンで、水和物の場合とアンモニア和物の場合とを比べると、反結合性HOMOを持つ場合には、アンモニア和系の方が七配位状態からの分子構造変化による安定化の効果が大きい。 これらの結果より、配位に関与する分子軌道の軌道エネルギーを下げる効果を持つ基を配位子に導入すれば、溶媒交換反応の反応機構を支配する七配位化合物を安定させることができるものと考えられ、反応を制御する手がかりが得られる。
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