Rh錯体によるアルカンのカルボニル化触媒サイクルの反応機構、および、Ru_3(CO)_<12>触媒によるベンゾイミダゾールとCOおよびアルカンの三成分カップリング反応における位置選択性発現機構についての、密度汎関数(DFT)法を用いた理論的研究を行った。前者においては、RhCIL_3触媒による、モデルアルカンであるメタンとCOからアセトアルデヒドが生成するモデル触媒サイクルの全体像を明らかにするとともに、配位子Lとして、モデルホスフィンであるPH_3、実験で使われているPMe_3、求核性の高いカルベン配位子imidazoline-2-ylideneを用いて反応のポテンシャル面を比較することにより、Lの電子的効果について検討した。その結果、どの配位子の場合も触媒サイクルのポテンシャルエネルギープロフィールは似通っており、律速段階はカルボニル挿入反応であること、Lの電子供与性の違いのために、COの結合エネルギーやメタンの酸化的付加の活性化エネルギーが少し影響を受けることが明らかとなった。後者の触媒反応で、窒素原子にα位およびβ位のCH結合が活性化されうるが、実験的にはα位のCH結合活性化が有利であることが報告されている。Ru_3(CO)_<10>(benzimidazole)中間体からは、活性化エネルギーが12.3〜14.2kcal/molと小さい反応経路が存在する。この反応経路のβCH結合活性化の活性化エネルギーは、αCH結合活性化と比べて2kcal/mol小さい。しかし、中間体も遷移状態も立体障害のためαCH結合活性化の場合と比べて不安定であるために、αCH結合活性化の方が有利であると考えられる。
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