Ru錯体触媒による末端アルキンへの水和における逆マルコウニコフ選択性発現機構の解明、および、静電ポテンシャルのcritical pointの値を用いた配位子や官能基の電子的効果の見積もりに関する理論的研究を、主にハイブリッド型密度汎関数(DFT)法(B3LYP)法を用いて行った。前者では、Ru(II)触媒の存在下、H_2O/2-propanlo溶媒中で、水が末端オレフィンに逆マルコウニコフ付加するという、これまでの位置選択性とは異なる触媒反応の位置選択性発現機構を調べた。その結果、逆マルコウニコフ付加は、水からのプロトン付加によるビニル錯体の生成、α水素のRuへの転移によるビニリデン錯体生成、OH^-のα炭素への付加という一連の反応過程よって発現するという結論がえられた。また、含水溶媒中ではこのようなプロトン付加を伴うような反応の可能性を明らかもしたと言うことができる。後者のプロジェクトでは、critical pointの値や位置といった静電ポテンシャルのトポグラフィーの情報を用いて、錯体触媒反応といった反応に電子的影響をおよぼす、配位子や置換基の電子的性質について検討を行った。配位子の電子的効果では、R_3PNi(CO)_3でのホスフィン配位子を対象とし、ホスフィンのσ電子供与性が非共有電子対の静電ポテンシャルの極小値で表されることを明らかにした。また、結合軸にそって存在するbond critical pointとよばれる静電ポテンシャルの極小点の位置および値を用いて、原子や原子団の電気陰性度が簡単な式で表されることを見いだした。このように静電ポテンシャルと経験的な式を用いて、ホスフィン配位子や官能基の電子的効果を知ることができ、このような手段は分子設計や反応設計での基礎的な情報を得るのに有用であると期待される。
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