溶液、蛋白質など大自由度分子系における化学反応を理解するために、次のような研究を行った。(1)配列選択シミュレーション。蛋白質はネイティブ構造にフォールドするために、矛盾のないコンシステントな相互作用を有するように設計されている。ペプチド鎖は変異と機能向上の選択を操り返すことにより、現在の洗練された蛋白質にダーウィン的に進化していった、という仮説をとりあげ、立体構造の経験的ポテンシャルモデルを用いて、これが可能なシナリオの一つであることを示した。(2)蛋白質の格子模型におけるフォールディング過程の分岐。相互作用がコンシステントなように設計されている蛋白質では、構造がネイティブ構想に近いほどエネルギーが低い、という傾向を持つ。こうした特徴をもつエネルギー面はファネル(漏斗)と呼ばれることがあるが、複数の安定な低エネルギー構造があるときは、単純なファネルでは説明できない多彩な動的現象が期待できる。格子模型を用いてエネルギー面の特徴と速度過程の関係を分析し、リゾチームなどのフォールディングを記述する理診的枠組みを提案した。(3)分子ネットワークの渦状構造と蛋白質の水和。水素結合ネットワークの組み替えに伴い、複数の水分子は協同的に動く。その結果生じる10A以上の大きさ、100psec以上の寿命を持つメゾスコピックな渦状構造の存在をはじめて示し、渦状構造が溶質のまわりで発達、安定化されること、溶質分子間相互作用をコントロールすることを分子動力学計算により示した。
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