研究概要 |
通常ジラジカル種の二つの非結合性軌道(ΨAとΨS)はエネルギー的に縮重しており、3重項状態が最安定スピン多重度として存在する。しかしながら近年、その最安定スピン多重度が隣接する置換基に大きく影響されることも見出されてきた。そのジラジカル種のスピン多重度に関する研究は、カルベン・非ケクレ分子・キノジメタン類を対象とした研究が主流であり、かなりそれらの化学的反応性が理解されるようになっている。一方、局在化ビラジカル種に目を向けてみると、理論的研究(量子化学計算)が行われているが、高い分子内反応性(分子内環化)のため実験的検証が遅れている。そこで、本研究では、速度論的に安定化を受けた1,3-シクロペンタンジイルジラジカル種を研究対象として選び、(1)2位上置換基のスピン多重度に及ぼす置換基効果(量子化学計算により予想)と(2)そのスピン多重度に依存したビラジカル種の反応挙動を明らかにすることに挑戦した。平成11年度は、1,3-シクロペンタンジイルジラジカル種の2位上に二つの酸素官能基を導入したビラジカル種に焦点を絞り、その発生法の開発と最安定スピン多重度、及び反応性を明らかにすることを目標にし実験を行った。その結果、化学計算により予想された様に、確かに二つの酸素官能基が導入されたジラジカルは1重項状態が最安定スピン多重度を有することを見いだした。また、興味深いことに、そのビラジカルの寿命は、大きく溶媒の極性に依存することを見いだした。本研究で見いだされた事実は、この分野におけるbreakthrough的発見である。
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