研究概要 |
本研究ではS_N2反応における遷移状態、hypervalent5配位炭素化合物、の安定化を目指した研究を行った。これまで、この種の化合物が単離されて構造が確定した例はなかった。そこで我々は、アントラセン骨格をrigidな3座配位子の骨格として用いて、配座的な自由度を減少させ、1,8位の2つの配位原子が、比較的強く相補的に中心の9位の炭素カチオンの安定化に寄与することを期待して研究を行った結果、1,8-位に酸素原子を有する新規3座配位子の合成に成功し、目的とするカチオン体のX線解析にも成功した。その結果、1,8-位の酸素配位子から中心の炭素原子までの距離はほぼ等しい上に、かなり短い元素間距離(2.43(1)Åおよび2.45(1)Å)を有することから、配位子間と中心炭素原子の間にはかなりの強さの相互作用があることがわかった。さらに、東京都立大の永瀬先生による密度汎関数法計算において、この1,8-位の酸素原子と中心の炭素原子間に比較的弱いかなり分極した求引的相互作用の存在が確認でき、その成果を論文で公表したところ、アメリカ化学会の機関誌、Chemical & Engineering News、でトピックとして取り上げられた(C&E News November 29,1999,p29)。
|