研究概要 |
本研究は立体保護を用いて新規高反応性化学種を安定な化合物として合成単離し、その性質を理論計算を併せ用いることにより解明することを目的としている。 平成11年度の本特定領域研究において、申請者らがこれまで種々の高反応性化学種の安定化に応用してきた有用な立体保護基である2,4,6-トリス[ビス(トリメチルシリル)メチル]フェニル基(Tbt基と略)と2,6-ジイソプロピルフェニル(Dip)基とを有するジリチオシラン1[Tbt(Dip)SiLi_2]とo-ジブロモベンゼンとを反応させることで、シラシクロプロパベンゼン2[Tbt(Dip)SiC_6H_4]の合成に初めて成功し、その特異な性質を明らかにした。本年度の研究において、1のゲルマニウム類縁体であるジリチオゲルマン3[Tbt(Dip)GeLi_2]の発生に成功し、3とo-ジブロモベンゼンとを反応させることによりゲルマシクロプロパベンゼン4[Tbt(Dip)GeC_6H_4]を初めて安定な結晶として合成単離した。4の構造についてX線結晶構造解析により検討したところ、ゲルマシクロプロパベンゼン核のベンゼン環のC-C結合長は全てほぼ等しく、シラシクロプロパベンゼン2の場合と同様に、ベンゼン環にかかる歪みが炭素類縁体であるシクロプロパベンゼンと比較して著しく小さいことが明らかになった。また、母核であるメタラシクロプロパベンゼン類[H_2MC_6H_4:M=C,Si,Ge,Sn]の構造について理論計算を行ったところ、実験結果と一致し、本研究において実験から得られた2と4のメタラシクロプロパベンゼン骨格のベンゼン環の歪みが炭素類縁体と比べて非常に小さいという結果が、置換基の効果ではなく環構造の本質的な性質であることが確認できた。
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