タンパク質の機能を解明するためには、量子論をベースにした理論的手段が必須である。申請者らはタンパク質などの大規模分子の全電子波動関数を求める密度汎関数法に基づく独自のプログラムを開発し、その全計算過程を並列化した。数台のワークステーションによるテストの結果、90%以上の並列化効率が得られた。この並列版プログラムを並列計算機システムでしようすることによって、タンパク質の全電子計算が可能となった。平成11年度は小タンパク質における収束技術を開発し、さらにその具体例として小タンパク質の全電子計算を実行した。主な成果を以下に示す。 1.10台以上のワークステーションとこれらを結ぶEithernetで構成されるクラスタを再構築し、計算機のアーキテクチャに特化したチューニングを本並列版密度汎関数法プログラムに施した。特に行列演算は一律10倍高速化した。 2.小タンパク質の全電子計算が収束する技術を開発した。タンパク質を数残基毎のペプチド鎖断片に分解し計算を収束させ電子密度を求める。これを用いて更に大きなペプチド鎖の初期電子密度を作成し計算を収束させる。この過程を逐次的に行うことによって、穏やかに小タンパク質の全電子計算が達成されることがわかった。 3.これらを用いて43残基のタンパク質BDS-Iの全電子計算に成功した。これは世界初の密度汎関数法によるタンパク質全電子計算である。計算比率は74.8%が分子積分、6.7%が交換相関ポテンシャルフィッティング、18.5%が行列演算であった。これらの結果から100残基程度のタンパク質の全電子計算が無理のない時間で実行可能であることが示唆された。
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