研究者らはヘムタンパク質や光合成反応中心のように金属錯体がタンパク質の活性中心として働き、さまざまな反応性を示す金属タンパク質のメカニズムを電子レベルで明らかにすることを目標とした。このような系における定量的な計算には電子相関効果が重要となるため、ab initio Hartree-Fock法と同程度の計算量で電子相関を取り込むことができるKohn-Sham-Roothaan方程式に基づく密度汎関数法に着目し、プログラムProteinDFを開発した。2001年、これを並列化し、ワークステーションクラスタに用いてヘムタンパク質の1つであるシトクロムcの全電子計算を世界で始めて達成した。さらに、本研究ではタンパク質を構成するペプチド鎖を次第に大きくしながら計算を進める収束法と、小ペプチド鎖の計算結果を組み合わせてより大型のペプチド鎖計算のための精度の良い初期値を作成する擬カノニカル局在化軌道法をそれぞれ開発した。これに加えて、問題が生じた場合はいつでも人間が小ペプチド鎖断片から最終目的のタンパク質までどのような段階を経て徐々に大きくしていくかという全電子計算シナリオを簡便に修正できるシステムを開発した。本システムは人間が判断しやすいようにタンパク質の様々な構造情報を提供するツールと計算のシナリオをグラフィカルかつ自由に変更することができるエディタで構成されたProteinDFの統合環境である。本システムは一般ユーザによるタンパク質量子化学計算の普及への鍵を握るものと考えられる。このような結果と計算機の能力変遷を考慮に入れると、それほど遠くない未来でタンパク質の本格的な量子化学計算の時代が到来すると考えられる。
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