研究概要 |
(1)高周期典型元素間に明確な三重結合をもつ分子を安定に合成して単離することに大きな関心が集まっている。本研究では、炭素と同族の高周期14族元素を取り上げ、原子軌道サイズの周期的特徴や混成のなどの基礎的な視点から三重結合の本質を統一的に明らかし、安定な三重結合分子の設計を系統的におこなった。その結果、非常にかさ高い置換基(たとえば、C_6H_2-2,4,6-[CH(SiMe_3)_2]_3やC_6H_3-2,6-(C_6H_2-2,4,6-i-Pr_3)_2)を導入すると、異性化に対しても二量化に対してもきわめて安定なケイ素-ケイ素三重結合をもつ分子が合成できることを理論予測した。また、高周期14族元素を骨格にもつ芳香族分子を安定化させるために有用な置換基の立体効果も理論的に明らかにした。 (2)金属内包フラーレンの多くは、金属原子からの電子移動のために、炭素ケージ上に開殻電子構造をもつので、きわめて不安定な常磁性分子である。しかし、電気化学的に還元あるいは酸化することにより、閉殻電子構造をもつ安定な反磁性のアニオンやカチオンに変換できることに成功した。たとえば、金属内包フラーレンの代表であるLa@C_<82>をアニオン化すると、水や弱酸を加えても変化しないし空気中でも数ヶ月も安定になることを見出した。その結果、これまでは不可能であったNMR測定が可能となり、長年の課題であったLa@C_<82>の2つの異性体(La@C82-AとLa@C82-B)の構造を決定し、我々の理論予測の実証をおこなった。高反応性と低収量による結晶化の難しさのために、常磁性金属内包フラーレンの構造解析はほとんどなかったが、反磁性のきわめて安定なアニオンの特性を利用することにより、多くの構造がNMR測定により容易に決定できることを提案した。カチオンも相当な安定性を示すが、アニオンと比較すると空気中では不安定である。これは、カチオンのもつ低いLUMOに由来する。
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