本研究の目的は、鋳型とする立体構造に巻きあがるタンパク質配列を人工的に設計する方法を確立することである。昨年度は3D-1D法というタンパク質の立体構造予測法を逆向きに活用してグロビン配列(DG1)を設計し、その構造を実験的に調べた。設計したタンパク質の概形はグロビン構造となったが、側鎖の揺らぎが大きいため天然タンパク質に特有の協同的転移を示さなかった。つまり、構造特異性が低い。この問題を克服するために、本年度は理論と実験両面から研究を行った。 理論としては、ロータマという典型的な側鎖構造ライブラリーを利用した構造-配列適合性関数の開発を試みた。ロータマの導入により、側鎖のかみ合わせを向上させることが狙いである。ある手続きで作成した関数(A)を用い、人リゾチームで測定されている点突然変異体の安定性を計算した結果、実験値と0.65程度の相関係数を示した。以前の関数では0.5程度の相関係数しか得られなかったので、改良が確認された。T4リゾチームでも良好な結果を得た。しかし天然配列を安定な配列と判定するテストではこの関数(A)より他の関数(B)の方が性能が良い。関数評価に用いたテストを詳しく調べた結果、両テストでは利用するパラメータの数が異なり、AとBのいずれが優れた関数かを判定するには実験値が不足していることがわかった。 実験としては、昨年度設計した配列(DG1)をベースにした改良を模索した。構造特異性を向上させるには、βブランチを含むアミノ酸を適宣使用することが有効であると言われている。そこでヘリックス部位にあるロイシンなどのアミノ酸をβブランチを含むイソロイシンやバリンに置換した配列(DG2-4)を作成し、構造の特異性を調べた。今回作成した3つのタンパク質はいづれもDG1より協同的に転移し、NMRなどの結果も改善されたが、面白いことに安定性は低下した。構造の特異性と安定性はぎりぎりの部分では背反性を持つことが示唆される。
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