研究概要 |
タンパク分子が何らかの刺激を受けるとその構造が変化し、酵素活性をONにしてある反応を進行させる。その結果さらに次の反応が誘起されるという連鎖的な反応が多様な機能を実現している。筋肉にあるミオシンはATP加水分解反応によりアクチン繊維に運動を起こさせるモータータンパクである。ATPを分解する反応ステップはミオシン表面の疎水性の変化と密接に絡んでいることをこれまで行った誘電法による水和解析により明らかにしてきた。要約すれば、タンパク1分子の中にエンタルピーの高い状態とエントロピー的に高い状態の2つの構造をとることが可能で、しかもそれぞれ自由エネルギーレベルではあまり変わらない場合には、わずかな外部刺激で1つの構造からもう一方の構造へ変化することができる。ちょうど相転移が1個の分子で起こっているようなものである。このエンタルピーとエントロピーを補償させる機構を応用してやれば、ON/OFFスイッチを1個の分子で確実に起こさせる手法として利用できる。われわれは、この原理ではたらく1分子スイッチを有機化学的に作成することを試み(2R,3R)-N,N'-Dialkyl tartaric acid amideを合成した。この分子は、疎水基が1対、水素結合部位が1対、それらが拮抗して結合するようにヒンジ(不斉炭素をつなぐシグマ結合)1つを有する。これらn-アルキル/ピレニル酒石酸アミド(butyl,hexyl,octyl,decyl,dodecyl、pyrenyl)は、CDCl_3・CH_3OH混合溶媒系でメタノールの濃度変化によりコンフォメーション変化が不連続にかつ可逆的に起こることからスイッチ機能を有していることがわかった。
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