本研究では、心臓の拍動のように一定条件下で自発的な周期的リズム運動を行う新しい「自励振動ゲル」を開発した。すなわち、生体の代謝反応(TCA回路)の化学モデルにもなっている、循環する反応回路を持つベローソフ・ジャボチンスキー反応(BZ反応)をゲル内で引き起こし、その化学エネルギーを力学エネルギーに転換する分子設計を行うことによりゲルの周期的な膨潤収縮振動を生み出すことに成功した。この自励振動ゲルを利用することにより、自ら周期運動するマイクロアクチュエータ、自己拍動(蠕動)型マイクロポンプ、分子ペースメーカー、情報伝達素子など新しい分子シンクロ材料が設計可能になると考えられる。このような機能を備えた新しいマイクロ・ナノマシンの実現を目的とし、自励振動ゲルの微小化技術の確立とマイクロ・ナノ環境下での挙動解析を行い、材料システム構築に関する基礎的検討を行った。 微小化のための手段として、近年進歩が著しい半導体微細加工技術によりゲルを任意の形の微小サイズに成形加工する方法が考えられる。そこで我々は2つの方法で自励振動ゲルの微細加工を試みた。一つは、高分子鎖に光架橋部位を導入し、フォトマスクを用いた光リソグラフィーにより任意の形にマイクロ加工する方法である。もう一つは、X線リソグラフィーによる3次元微細加工であり、この手法により実際に人工繊毛アクチュエータが作成された。表面に添加した微粒子等を輸送するマイクロ搬送システムなどへの応用が可能であると考えられる。 さらにナノアクチュエータ(ナノ振動子)の創製を目的とし、ゲル微粒子を用いてナノオーダごでの膨潤収縮振動を実現した。一方、未架橋の直鎖状ポリマーを用いることにより、高分子一本鎖の周期的な伸縮振動も可能となった。その解析過程で、触媒をポリマー化する効果や、高分子鎖の振動が互いにシンクロナイズするときの架橋の効果等を明らかにし、ポリマーネットワークの協同効果に対する興味深い知見を得た。
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