双安定な非線形電極反応を単独で駆動すると、電流の自励発振を行う振動子となる。自励発振している電極の周囲には、軸対象に電位とイオンから成る電気化学振動波が溶液中へ放出され伝播する。この非線形電気化学振動子を単一の電解質溶液の中に列べると、振動子毎の電気化学振動波が相互に干渉するために、振動子間に情報のシンクロナイゼーションが進み集団秩序が生成する。非線形電気化学反応として、硫酸水溶液中の鉄のアノード腐食反応を利用すると、双安定性の起源である絶縁性酸化皮膜はN型半導体であることから、レーザー光照射によって特定の振動子の自励発振波形を光で制御することができる。振動子間の結合の強さは、溶液内の電極配置を規制することにより、強くも弱くも自在に制御できる。鉄電極の電気化学振動は、数に制限無く連成が可能で、その発振波形を光制御できる特異な反応系である。この非線形振動子を30個組み合わせ、集団的な時間秩序や空間秩序が、どの様に発生し、また光刺激により集団構造がどの様に変化するかを実験・理論両面から調べた。平成11年度では、3-5組の振動子を用いて、お互いに鏡像関係にある幾何学配置(例えば3角形)を構成して、電気化学振動の伝播の時系列を解析した。この結果、鏡像関係の光学配置では、電流パルスが発信する時系列が、配置により右回り左回りと変化することが明らかになった。理論モデルでは、軸対象円筒形電極周辺の泳動拡散方程式を解き実験結果の解析へ向け準備を進めた。
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