酵素などのバイオキャタリストを、ある一定方向への反応の流れを作る分子素子と捉えると、その阻害剤が存在するという情報は、反応の流れをせき止める作用を通じて信号増幅されることになる。酵素ペルオキシダーゼのモデル物質であるヘムペプチドを固定化した電極は、過酸化水素還元活性を持ち、その反応速度を還元電流として観測できる。イミダゾールやヒスチジンはその活性を阻害する作用を持つため、電流値の低下に基づいてこれらの阻害物質の定量を行うことが可能であるが、そのままではイミダゾールとヒスチジンを同時に含む溶液の定量分析はできない。本研究では、ヘムペプチド固定化電極をN-イソプロピルアクリルアミドゲル膜で被覆し、温度変化に対応したゲルの体積相転移に伴う、阻害作用の変化について調べた。その結果、ゲルを膨潤状態から収縮状態(膨潤時よりポリマー鎖の網目が細かく、膜内の疎水性が高い)に変化させた場合、イミダゾールによる阻害作用はほとんど変化しないのに対し、より分子サイズが大きく親水性の高い、ヒスチジンによる阻害作用は大きく抑えられることがわかった。すなわち、阻害物質に対する感度を選択的に制御できることがわかった。このことから、膨潤状態と収縮状態のそれぞれにおける応答に基づき、イミダゾールとヒスチジンという二つの阻害物質の濃度を定量することが可能であることが示された。また、阻害作用を利用した、酵素モデル電極の活性制御も可能であることがわかった。
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