酵素などのバイオキャタリストを、ある一定方向への反応の流れを作る分子素子と捉えると、その阻害剤が存在するという情報は、反応の流れをせき止める作用を通じて信号増幅されることになる。また、この阻害剤とバイオキャタリストとの親和性に対し、外部環境とシンクロナイズした変調をかければ、外部環境の制御を介した活性の制御が可能になると考えられる。酵素ペルオキシダーゼのモデル物質であるヘムペプチドをバイオキャタリストとして固定化した電極は、過酸化水素還元活性を持ち、その反応速度を還元電流として観測できる。温度変化に伴って相転移して溶解度が変化するポリマー(ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド))に、ヘムペプチドに対して活性阻害作用を示すイミダゾールを結合すれば、溶解度を変化させることによって阻害率を制御し、ヘムペプチドの活性を制御することが可能になると考えられる。実際にそのようなポリマーを合成し、ヘムペプチド電極と共存させた。溶液温度を変化させると、相転移温度である35℃を境に活性の変化が見られ、ポリマーが不溶となる高温側と比べ、可溶となる低温側ではより高い活性が観測された。しかし活性変化が20%程度と小さいという問題もあった。これは、ポリマーに結合したイミダゾールが、ヘムペプチドの配向によっては、立体障害のためヘムペプチドに結合しにくいことによると考えられる。今後は、ポリマーの重合度を低く抑えることなどにより、活性変化をより高める必要がある。
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