本研究はアメーバの一種である真性粘菌変形体における外部環境応答すなわち個体運動へ至る過渡過程のダイナミクスを明らかにすることを目指し、微生物運動に共通する特性を捕らえるという観点から、典型的なアメーバであるAmoeba proteusの一見ランダムな運動を観測し非線形解析を試みた。Amoeba proteusを無刺激の等方的環境下で運動させCCDカメラにより観測し、その挙動をコンピュータに取込んだ。これらを画像処理し、運動を特徴づける幾つかのパラメータとして、アメーバの面積と周囲長、移動変位の大きさ、移動方向の角度変化等を調べ、それらの時系列の解析を行った。 先ず、時系列からn次元ベクトルを構成しn次元(埋め込み次元)空間での相関次元を調べた。これはフラクタル次元の一つの尺度であり、アトラクターの構造を評価する量である。その結果、相関積分C(r)∝γ^νの関係より相関次元νと埋め込み次元nの関係を調べ、-6<logC(r)<-2の領域でνは一定値に収束することが分かった。一方、n次元位相空間における軌道の不安定性を評価する量であるリアプノフ指数はn元離散力学系において微小変位のヤコビ行列よりn個の固有値を推定する方法である。その結果、最大リアプノフ指数が正の値を取ることが分かった。 以上のような非線形解析の結果はアメーバのランダム運動が低次元(ν<4)系のカオス的性質を持ち、一見ランダムな運動が決定論的なダイナミクスに従うシンクロナイズした運動であるという知見を得た。
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