弱い相互作用のバランスでその構造が規定されているソフトなポリマーネットワークでは、一部の機能団の受けた外部刺激による微弱な摂動が質的に変換され、この弱い相互作用の分子ネットワークを通して時間的・空間的にシンクロナイズして伝達されるという現象がしばしば見られる。すなわちこの弱い相互作用のネットワークは、構造を形成するネットワークであると同時に、情報やエネルギーの伝達や変換を司るネットワークとして機能し得る。本研究は、このポリマーネットワークの分子シンクロナイゼーション現象を分子レベルで明らかにし、化学エネルギー・情報変換系創製のための新しい方法論として提案したものである。具体的には以下の3項目に関し研究を進めた。 (1)イオン液体中での1in-situ重合によるイオンゲルの創製と化学エネルギー変換 イオン液体というイオンのみからなる液体を含有した高分子ゲルを用いた化学エネルギー変換系の構築を進めた。プロトン伝導性イオン液体およびそのイオンゲルは水素酸化・酸素還元反応活性を示し100℃以上の温度かつ非水条件下で作動する燃料電池として機能することを先駆的に発見した。 (2)グルコース酸化酵素(GOx)ハイブリッドの迅速電子移動反応と化学情報変換 フェノチアジン修飾酵素(GOxハイブリッド)はレッドクス活性となり、基質であるグルコース在下では酵素反応を高効率に電流変換可能となった。その結果、このハイブリッド酵素は系中の酸素濃度に依存しない新しいグルコースセンサーの構築を可能にした。 (3)最密充填コロイド結晶を鋳型に用いた構造色ゲルの創製と化学情報変換 最密充填シリカコロイド結晶を鋳型にハイドロゲルを合成し、その後これを溶解除去すると、ゲル中にコロイド結晶のネガ構造が保持され、構造色を呈することを見出した。ゲルの膨潤・収縮過程にシンクロナイズしてこの構造色を変化させることを利用して、フェニルボロン酸をゲル構造中に導入することにより、グルコース濃度変化を構造色変化として取り出す化学情報変換系の構築に成功した。
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