研究概要 |
本研究では、化学的、物理的、および生化学的など多重刺激のシンクロナイゼーションに応答して機能を発現する材料システムとして、異なる刺激に応答して構造変化を生起する生分解性高分子およびそのヒドロゲルの設計を推進している。本年度は、温度応答型高分子をグラフト鎖として生分解性多糖であるデキストラン導入し、グラフト鎖の分子量や導入量の違いにより温度という刺激にシンクロナイズした酵素分解特性を変化させること目的に、分子量の異なる温度応答型高分子をグラフトしたデキストランを種々合成し、それらの温度に応答した酵素分解制御に関して検討した。 分子量の制御された片末端アミノ化N-イソプロピルアクリルアミド共重合体の合成法を確立した。具体的には、3-メルカプトプロピオン酸メチルを連鎖移動剤として用いたN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)とジメチルアクリルアミド(DMAAm)との共重合体[poly(NIPAAm-co-DMAAm)]の合成を行い、ヒドラジン一水和物によるヒドラジノリシスにより片末端アミノ化poly(NIPAAm-co-DMAAm)を得た。これにより、アミノエタンチオールや2-メルカプトエタノールを連鎖移動剤として用いたときの不完全な分子量制御の問題を克服することができ、数平均分子量900〜40,500のpoly(NIPAAm-co-DMAAm)をデキストラン(DEX,Mn=40,000)へ導入し、LCST以下・以上におけるDEX鎖のデキストラナーゼによる分解性を粘度測定から評価した。グラフト鎖の導入率が同じで分子量が1,510、3,800、9,140であるそれぞれのグラフトポリマーの緩衝溶液中での酵素分解に伴う粘度測定結果から、LCST以下では分子量の増大に伴い分解が抑制される傾向を示した。このことは、分子量約9,000のグラフト鎖がデキストラナーゼのDEX鎖への接近に対する立体障害となっていることを示唆している。ところがLCST以上ではグラフト鎖の分子量に依存せずに分解が進行した。以上のことから、DEX鎖へ導入するグラフト鎖の分子量が、温度にシンクロナイズした酵素分解の制御に重要であることが明らかとなった。
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