研究概要 |
本研究では、多重刺激のシンクロナイゼーションに応答して薬物放出制御可能な材料システムの設計を目指して研究を推進してきた。これまでに、特定温度領域で分解するデキストラン-温度応答性ヒドロゲルと多価相互作用可能なビオチン-ポリロタキサン結合体の設計を推進してきた。本年度は、多重刺激のシンクロナイゼーションとして新たに、ポリイオンコンプレックスと環状分子の包接とのシンクロによる組織形成を目指して研究を行った。 ポリイオンコンプレックスと環状分子の包接とのシンクロによる組織体形成 α-,もしくはβ-シクロデキストリン(CD)を結合したポリ(ε-リジン)(CDPL)を合成し,ゲスト分子であるトリメチルシリルプロピオン酸(TPA)との水中での包接特性を検討した。高濃度条件にてβ-CDPLとTPAを混合すると,相分離したゲル様物質が得られた。この現象は限定されたpHにおいてのみ観察された。混合したβ-CDPL/TPAは、上限臨界溶液温度(UCST)以上では透明な水溶液であるが、冷却していくとUCST付近の1-2℃で急激に透過率が低下した。これらのことは,α-,β-CDPLに包接したTPAと分子内及び隣接しているPLアミノ基との静電的相互作用により相分離が起こるものの、β-CDPLの場合、TPAとの包接の寄与が静電的相互作用よりも大きいものと考えられる。この相分離は,定性的に1秒以内に観測されたことから,ストップトフロー分光分析装置を用いて相分離に伴う500nmの吸光度の時間変化を測定した。pH6と7では、吸光度が約100ミリ秒までに上昇したが、pH4と9においてはそのような瞬発的な相分離は見られなかった。これらの結果から、この極微小pH領域での相分離がCDPLとTPAの包接及び静電的相互作用によってミリ秒オーダーで完了することを明らかにした。
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