研究概要 |
我々は生体膜のモデルとしてリポソームを用いて、そのトポロジー変換の分子メカニズムを明らかにし、その機構を利用して、安定性と高機能性をもつ薬物輸送系の創成を試みている。 1,リポソームからの持続的薬物放出 リポソームは形態変化を起こしても表面積は一定である。しかしながら界面舌性剤をリポソームに作用させると、リポソームは球形を維持しながらその大きさを徐々に減少させることがわかった。次に、この持続的縮小の過程をより詳しく観察したところ、緊張期と、揺動期の2つの状態を交互に転移しながら縮小していくことがわかった。 これらの現象を説明するために、以下のようなモデルを提唱した。リポソームの表面積は界面活性剤の作用を受け、常に表面積に比例した速度で減少する。実際の表面積が、その体積に対応する球体の表面積より小さくなれば、膜が張った状態になる。この張力が高まり、ある一定の値を超えると膜に穴が開き、内部の水を放出して体積を減少させる。この時点で、膜の張力は減少し、膜が激しく揺らぐ状態が生じる。この系は持続的薬物放出系としての可能性を持つ。 2,リポソームの内部小胞の直接放出 上記のモデルを支持する現象が、内部に別の小型リポソームが入っているようなリポソームで頻繁に見られた。外側のリポソームの膜が揺動期に入ると内部のリポソームが外に直接放出された。内部小胞が、外側のリポソームと膜融合の過程を経ずに、直接放出されることは極めて新規な現象である。このような小胞放出過程は、エキソサイトーシスとは全く異なった挙動であり、細胞生物学等との関連においても注目すべき膜の特質である。内部リポソーム中の貴重な薬剤を外部リポソームで保護しながら、必要時に内部リポソームを放出する新しい輸送系への発展が期待される。
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