研究概要 |
疎水性ポリペプチドの分子鎖末端に、分子認識能を有するβ-シクロデキストリン(β-CyD)を配した両親媒性ポリペプチドが、油/水界面で単分子膜を形成することにより、β-CyDのゲスト分子を刺激源として発振する現象を定量的に解析し、その分子機構を明確にするとともに、新規情報変換分子システムとしての工学的応用を目的とした。モノアミノ化したβ-CyDを開始剤として用い、γ-メチル L-グルタミン N-カルボキシ酸無水物の重合を行い、分子認識能を有するCyDを分子鎖末端に配した両親媒性ポリペプチドを調製した(PMG_n-CyD;n=19,24,34)。また、ペプチド尾部の二次構造を、円二色性(CD)測定により評価した。その結果、すべてのPMG_n-CyDにおいて、α-ヘリックス構造をとっていることが明らかとなった。次に、n-ヘキサン/水界面におけるPMG_n-CyD界面単分子膜の形成と構造評価を行った。単分子膜の形成をテフロン製トラフに形成したn-ヘキサン/水界面に、PMG_n-CyDのDMF溶液を逐次展開して行い、その時の界面圧を、Wilhelmy法により測定し、表面圧-面積(π-A)等温線を作成した。その結果、一分子当たりの面積Aの減少に伴い、界面圧が急激に上昇する領域が2ケ所存在した。各々の界面圧が上昇する領域の直線部分をπ=0に外挿して、面積A_L、A_sを得た。各々のサンプルで広い面積A_Lは大きく異なっており、重合度の差を反映していたが、狭い面積A_sはPMG主鎖の重合度が異なるにも関わらず各試料とも同一の値であった。これは、A_s以下の面積ではα-ヘリックスが界面に対して垂直方向に配向しているためと考えられた。次に、ゲスト分子導入に基づく分子膜システムの運動リズムの発生について検討した。n-ヘキサン/水界面でのPMG_<19>-CyDの分子配向を制御した状態でCyDのゲスト分子である2-p-トルイジニルナフタレン-6-スルホン酸(TNS)添加し、その時の界面圧の時間変化を測定した。TNS添加の30秒後から自発的に界面圧の周期的な振動が発生した。この振動現象は、添加するゲストの濃度および種類に左右されるためCyDとゲストの錯体形成が主たる要因と考えられた。
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