研究概要 |
本研究では,刺激に応答してコンホメーション変化を起こす高分子ブラシを精密合成し,これを多孔性膜に自己集積化することにより,刺激に応じてマクロなレベルの応答である物質透過性を精密に制御することを目的とした.これまでは,刺激応答性の高分子鎖を多孔性膜にプラズマ重合でグラフト化することで物質透過制御膜は作製されてきたが,グラフト鎖の長さや密度を正確に制御することができず,精密な物質透過の制御は困難であった.そこで本研究では,あらかじめ精密に合成した高分子を多孔性膜表面に自己集積化という技術で固定化することにより,精密な孔径制御を行った.高分子ブラシとして,片末端にチオール基を有する,分子量の精密に制御された核酸やポリペプチド(たとえば,ポリグルタミン酸やポリリシン)を合成した.核酸は固相法により合成し,ポリペプチドはNCA法により合成し,各々チオール基を有する化合物を末端に結合させた.ポリペプチドの分子量は,重合時の開始剤濃度である程度制御できるが,予想どおりの値が得られたかを分子量測定によって確認した.次に,市販のポリカーボネート製の多孔製膜を金でコーティングした表面に,高分子ブラシを吸着させた.金表面上への自己集積化度を,仕込み濃度や吸着時間をかえて測定した.このようにしてブラシの長さと密度が正確に決められた材料の物質透過性を,異なるpHや金属イオン濃度で測定し,その変化を観察した.ポリグルタミン酸を吸着させた材料は,低pHでは分子鎖が収縮し,孔を広げて透過性を増加させ,高pHでは伸展して孔をせばめ,透過性を減少させると考えられる.核酸を吸着させた材料では,鉄イオンの価数に応じて透過率の制御を試みた.
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