研究概要 |
我々は「癌細胞の細胞膜を拡散で透過するのではなく,キャリアーを用いて細胞内へと導入し細胞内で抗癌剤を放出すれば,一部はポンプによって汲み出されてもある割合で作用部位へ到達させることができるであろう」という作業仮説を立て,以下に検証を行った.細胞膜表面のレセプターとして癌細胞でup-regulateしているトランスフェリンレセプターを標的とし,レセプター介在性のエンドサイトーシスでドキソルビシン(DOX)封入リポソームを導入するために,リポソーム表面にトランスフェリン(Tf)を化学的に結合させた.Tfのリポソーム表面密度は5%とし,レセプターを介して細胞内へ取り込ませた.一方,耐性癌細胞のIC_<50>値は30uMで、p-糖蛋白質の阻害剤であるベラパミルを共存させるとIC_<50>値は濃度依存的に減少し,感受性株と同様の値となった.また,細胞内へDOXを取り込ませた後、細胞外のDOXを洗うと感受性株の場合はDOXを徐々に放出するのに対し、耐性株は非常に速やかにDOXを細胞外へと排出した.これらの情報から耐性株の主要な耐性機構はp-糖蛋白質による細胞外への汲み出しであると推察される.そこで,Tfで表面修飾したりリポソームにpH-勾配法でDOXを封入し,耐性株へ投与したところ,IC_<50>値は30uMから4uMへと減少した.一方,感受性細胞ではTf-修飾の効果は見られていない.このことは我々の作業仮説の有効性を支持している.また,細胞へのDOXの取込量を測定したところ,耐性癌細胞は汲み出しポンプによりフリーのDOXの場合には細胞内DOXの上昇が見られないが、Tf-Liposomesを用いると細胞内濃度が感受性細胞とほぼ同等のレベルへと上昇し,抗腫瘍効果が見られるようになった.
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