研究概要 |
アンチセンス法は、標的mRNAに対するオリゴヌクレオチド(ODN)の特異的な相補鎖形成を利用した効果的な遺伝子治療法である。本研究では、このアンチセンスODNを様々な機能性高分子で複合化し、その薬理効果の制御と標的細胞へのターゲッティング法の開発を目的としている。今年度はODNと熱応答性ポリマーであるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)との複合体を構築し、その性能評価を行った。mRNA上のリボソーム結合部位を標的配列とするアンチセンスODNを設計し、その3'末端をビニル化した。HPLC精製した後、これをNIPAAmモノマーとラジカル共重合反応させることにより、ODN/PNIPAAm複合体を得た。この複合体はNIPAAmホモポリマー同様に33℃で相転移することが確認された。ODN複合体にssDNA分解酵素(S1Nuclease)を添加したところ、複合体のヌクレアーゼ耐性は未修飾ODNと比較して明らかに向上していることが示された。次に、GFPをレポータージーンとするin vitro転写/翻訳システムによって、ODN複合体のアンチセンス効果を評価した。鋳型DNAに対して、モル比で0,10,100,そして1000倍となるように複合体を加え、27℃で発現を誘導したところ、GFPの発現は複合体の投与量に比例して効果的に抑制された。この現象は、ODNの塩基配列に特異的であり、Mismatch、Scramble配列ではその阻害効果が明らかに低下した。一方相転移温度以上(37℃)でインキュベートした場合、複合体による阻害効果は、未修飾ODNと比較して有意に低下した。つまり複合体の遺伝子発現阻害効果はODN末端に修飾されたPNIPAAmの相転移に制御されており、グロビュール化したPNIPAAm側鎖はODN-mRNAハイブリッドの形成を強く阻害することが示唆された。
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