これまでの研究から、ポリアニリンのキャスト膜ではpH3以下の強い酸性電解水溶液中でのみ電解収縮が起こるため、実際に応用するには問題が多いことを指摘した。一方、ポリピロールはpH>4の中性水溶液中でも活性であることから、ポリピロール薄膜の電解伸縮のサイクル依存性などを測定した。その結果について報告する。 ポリピロール膜は、パラフェノールスルホン酸(PPS)あるいは塩酸水溶液中で、膜厚50μmの電解重合により作成した。柔軟性、膜質、伝導度などからPPSで重合したティルムが上質であった。 PPSを用いて電解重合したフィルムでは、酸化還元の繰り返しによってその都度は2〜3%伸縮するが、フィルム全体が数%程度緩やかに伸びていくことが分かった。緩やかな伸びは重合によるフィルムの緊縮がサイクルによって解きほぐされることによると思われる。 塩酸により重合したフィルムでは、電流や変位はサイクルによって本質的に変わらず、しかも、pH2〜11の測定した範囲でほぼ同様の挙動を示す。一方、PPSで重合したフィルムでは初期の伸縮挙動が塩酸で重合したフィルムとは異なった振る舞いをするが、サイクルを繰り返す事によって塩酸と同様な振るまいに移行することが分った。これらの結果から、PTSで重合したフィルムで見られる初期の小さな伸縮は、酸化還元課程で出入りするイオンは正イオンであることが示唆される。また、嵩が大きいフェニルスルホンイオンはサイクルによって、少しずつフィルムから電解液に放出され、PPSとClのイオン交換が起こって、最終的には、塩素イオンのドープ・脱ドープに至ることが分かった。更に、支持電解液として、KCl、NaClO_4に変え、また、NaClの濃度を変えて、伸縮率の測定を行い、正イオンによっては伸縮率はあまり変わらないが、大きい負イオンほど、伸縮率が大きいことが明らかになった。
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