脂質分子のシンクロナイゼーションを利用して、分子集合体の秩序性の差を誘発し、システムのマクロな物性変化を生み出す新規人工材料システムの構築することを目的として研究を行った。 C60単独薄膜修飾電極では困難な電子移動反応が、フラーレンC60・脂質フィルム修飾電極系では速やかに進行することは既に見出している。ここではまず、人口脂質としてトリドデシルアンモニウムブロミド(1)を用い、これから形成されるニ分子膜フィルムにC70を固定化した電極を作成し電子移動挙動を調べた。C60と同様なC70トリアニオン生成に至る3段階のサイクリックボルタモグラム(CV)が観測されることがわかった。ところが、繰り返し電位掃引により第一レドックス波のみが著しい減少を示した。C70ジアニオン形成に至る2段階還元反応のボルタモグラムの連続掃引では、C70ジアニオンは、C60と同様にボルタモグラムの電流値に変化はなく安定であることより、C70トリアニオン生成が第一レドックス波の著しい減少に関与していると思われる。 相転移を持つジヘキサデシルジメチルアンモニウム-ポリスチレンスルフォネート(2)(DSCより求めた相転移温度は27℃)、をマトリックスフィルムとしてC70の電子移動を行った。2フィルムのニ分子膜の相転移温度以下ではC70は電極との電子移動反応はほとんど進行しない。これに対してニ分子膜が流動的になる相転移近傍からC70/C70アニオンラジカルの電子移動反応が明確に観測される。すなわちC70の電子移動反応が膜相転移とシンクロナイズしていることが明らかとなった。
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