これまでに、新規に光学活性なモノマーを合成し、このモノマーからなる高分子[Poly((L)-N-(1-hydroxymethyl)propylmethacrylamide)(P(L-HMPMA))]が、精製水中で約30℃付近にLower Critical Solution Temperature(LCST)を有する水溶性高分子であることを報告してきた。この光学活性高分子はLCST以上になると非常に安定な沈殿を作り、温度変化のサイクル(昇温・降温)に対して明らかな履歴を示す特徴を持っている。本研究では、水溶液のpHやイオン強度などの条件を変えてポリマー水溶液の透過率変化を測定するとともに、動的光散乱、高感度DSC測定により、この高分子の水和・脱水和挙動の変化を検討した。 緩衝溶液(pH7.5)にポリマーを溶解し、500nmにおける種々の温度での透過率をUV-vis分光光度計を用いて測定した。精製水中で、P(L-HMPMA)は30℃で濁度を生じて沈殿を形成したが、緩衝溶液中では、22℃付近から透過率が減少し、沈殿の形成が観察された。さらに、イオン強度を0.05から0.15Mにまで上げた場合、その透過率減少が開始する温度は一様に19℃であった。P(L-HMPMA)は、光学活性なモノマーから構成されているため、側鎖間のパッキング状態が高く、高分子鎖全体としてもコンパクトな状態で水中に溶存していると考えられる。側鎖間に水素結合性相互作用が存在し、生理条件下の水溶液中では、より高い水和状態を示しその透過率変化は相対的に高い温度で観察されることが予測されたが、コンパクト状態のP(L-HMPMA)鎖は、塩存在下の緩衝溶液中で、さらに脱水和状態が誘引されたことは、動的光散乱の結果から、緩衝溶液中で高分子鎖がさらに大きな集合体に変化したことと関連している。精製水中で、約10nmと90nmに散乱強度分布を示したP(L-HMPMA)は、緩衝溶液中では、より大きなそして広い分布に変わり、塩析効果によりさらに脱水和状態を誘引し高分子鎖間で凝集したものと考えられた。また、高感度DSCより、水和から脱水和状態に変化するΔHは非常に小さく、水に溶解状態で既にある構造体を形成していることを示唆した。
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