ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(IPAAmと略す)から構成されるハイドロゲル中に、その優れた温度応答性を保持したまま多数の官能基を導入する手法を検討し、そのゲルの物性や応用を検討した。連鎖中のイソプロピルアミド基の連続構造が極めて重要であるという仮説をたて2-カルボキシイソプロピルアクリルアミド(CIPAAm)を設計、合成した結果、IPAAm-CIPAAmの共重合体およびそのゲルは、それぞれホモポリマーおよびゲルと極めて類似した鋭敏な相転移挙動を示すことが明らかとなった。本年度は、化学構造の重要性を明確にするためにイソプロピル基をノルマルプロピル基に変えたもの共重合体およびゲルの相転移挙動の解析と、細胞培養床への応用を検討した。 n-プロピル基を有するCNPAAmモノマーとの共重合体ではCIPAAm共重合体と異なり、カルボキシル基の含率が増加するに従って相転移温度は高温側にシフトした。この挙動はAAc共重合体と一致するが、AAc共重合体で見られるプロード化は起こらず、高pH領域においても明確な相転移を生起することが明かとなった。ハイドロゲル系においては、高pH下でも、共重合体の場合と同様に、体積相転移温度は高温側にシフトするものの、明確な相転移温度が確認された。これらの結果は、IPAAmコポリマーがイオン解離基が存在してもホモポリマー類似の温度応答挙動を発現できるのは、イソプロピル基の高い凝集性によるものと推定された。 IPAAmとCIPAAmとの共重合体を同細胞培養用ディッシュに固定化して血管内皮細胞の接着および脱着挙動を観察した。AAc共重合体では、AAcがわずか3%含まれると細胞の接着性は極端に低下する結果となった。一方、CIPAAmとの共重合体では、5%含まれていても細胞の接着性はそれほど低下せず、IPAAmホモポリマーと同様の接着性を示した。この結果は、相転移温度以上でCIPAAmの疎水性がIPAAmホモポリマーと同程度に維持されており、また相転移温度以上では細胞が剥離できる程度に親水的になっていることを示している。
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