オペラント条件づけパラダイムを用いてゴキブリに匂い学習訓練を行った後、ゴキブリを実験台に固定し、脳に微小電極を刺入して、1)報酬(砂糖水)と連合させた匂い、2)罰(塩水)と連合させた匂い、および3)未経験の匂いを触角に提示し、その時の触角葉出力ニューロン、キノコ体出力ニューロン、前大脳側葉ニューロンの応答を記録し、匂い学習に伴う活動変化について検討した。その結果、これらの3種類のニューロンの匂い応答様式についての種々の基礎的知見を確立させることができた。 また、コオロギおよびゴキブリにおいて、新たに古典的条件づけのパラダイムを確立させることができた。さらに、この古典的条件付けは昆虫を実験台に固定した条件でも成立することが明らかになり、学習行動実験と電気生理学実験との本格的な組み合わせが可能となってきた。 これらの学習パラダイムを用いて、コオロギとゴキブリの匂い学習能力や匂い識別能力についての研究を進めた結果、ゴキブリにはヒトに劣らない高度な匂い識別能力があること、コオロギには明暗の条件の違いに応じて異なる匂いを報酬と連合させる状況依存的な嗅覚学習能力があることなどが明らかになった。このような高度かつ柔軟な記憶操作・処理の能力の発見は、昆虫の匂い認知とその神経機構の研究に新たな展開をもたらす契機となると期待できる。 さらに触角葉出力ニューロン、キノコ体入力ニューロン、キノコ体出力ニューロン、前大脳側葉出力ニューロンの前大脳側葉での分枝パターンについて多くの知見が得られ、キノコ体と側葉との神経接続様式および側葉内部の神経配線様式の解明に向けて大きく前進した。
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