本研究では、コオロギ気流感覚細胞の発火時刻揺らぎのエネルギー感度を測定し、(1")"この機械受容器のエネルギー閾値がkT程度であること、(2")"感覚細胞の発火時刻の揺らぎは互いに無相関な内部雑音によること、(3")"外部の微弱な信号成分が感覚神経細胞同士の発火時刻の共分散(発火時刻が共に早まったり遅れたりする傾向)として中枢へ送られていること、を明らかにした。つまり、コオロギ気流感覚細胞は常温300°Kの分子1個の運動エネルギーkT程度の感度を持ち、熱雑音(分子のブラウン運動)に揺すられてStochasticなサンプリングを起こして神経パルスの発火時刻のランダムな変動として中枢へ持ち込んでしまうこと、がわかった。 現在、中枢の介在神経は熱雑音が互いに無相関であることを利用して、熱雑音以下の微弱な外部信号を多数の感覚入力の共通成分として抽出するシナプス統合機構を持つことを、明らかにするため、様々な周波数を含むガウス白色雑音を刺激波形として用い、閾値付近の刺激対する内部雑音の効果を情報伝送量として表現する計測を進めている。これによって、内部熱雑音の強度とスペクトル帯域の推定が可能となり、昆虫の神経系が情報量最大化の設計原理に従っていることを実証できる。この計測にはさらに2年間を要する見込みである。
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