研究概要 |
本研究は、昆虫の微小脳による嗅覚情報のコーディングと匂いにより発現する適応行動の神経原理を追及することを目的とする.本年度は、雄カイコガ(Bombyx mori)の嗅覚系一次中枢(触角葉)における匂い識別のためのコーディングを単一神経レベルおよび複数神経細胞の時空間的活動パターンのレベルから分析するためのデータベースシステムを構築するとともに以下の研究を実施した。 (1)カイコガのニューロンデータベース構築のためのシステムを設置し、仮運用を開始した.細胞内記録および染色により、現在までに触角葉神経細胞および前大脳神経細胞、約300を登録した.(2)個体間で脳内領域や登録した神経細胞間の関係を調べるために、脳内の特徴的な構造物(たとえばキノコ体β葉、中心体など30点)を指標として、テンプレートとなる脳とそれぞれの指標点との相関を求め、相関係数が最も高くなるようにx,y,z軸の補正を行い、脳の3次元座標系を作成した.(3)カイコガの大糸球体が3つの機能的コンパートメントからなること、また常糸球体が56±1個の糸球体からなることを示した。さらに、触角葉内において3次元座標を決定し、個体間で個々の常糸球体の位置および構造の特徴から、56±1個のうち27個を個体間で同定した.同定した常糸球体からの出力神経の匂い応答を記録し、現在その分析を行っている.(4)触角葉において、5-HTおよびGABAに対する免疫組織化学的分析を行い、前大脳から単一の5-HT作動性様神経が触角葉全域にフィードバックすること、触角葉を構成する局所介在神経と出力神経でGABA様免疫反応を認めた。(5)膜電位感受性色素を用いた光学的計測法により、触角葉神経における5-HTの効果を時空間信号として記録することに成功した。これらの研究成果に基づき、単一神経レベルおよび複数神経細胞の時空間的活動パターンのレベルから匂い識別の機構の分析を開始した。
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