研究概要 |
視葉概日時計間の相互同調系は、分散中枢間の相互作用を研究するための最適なモデル系である。フタホシコオロギを用いた概日時計の神経機構の研究から、これまでに、概日時計が脳の一部である視葉に左右一対存在すること、左右の時計は相互に時刻・明暗情報を交換することにより同調すること、この情報を仲介するニューロンは両側の視髄を直接連結する26対の視髄両側性巨大ニューロン(MBN)の中にあることなどが明かになっている。本年度は、電気生理学的解析と薬理学的解析を組み合わせることにより、セロトニン系が時計間の同調機構にどのように関わるのかを解析し、以下の結果を得た. 1)セロトニン系の関与:片側視神経を切断し、明暗13:13の光サイクル下に置いたコオロギでは、正常側視葉時計と盲目側視葉時計が脱同調し、それぞれ光同調する成分と自由継続する成分を制御する.盲目側の周期は正常側との位相角に応じて変調するが、この変調の程度が5,7-DHTを投与した個体ではリンガー液投与個体に較べ大きく低下することが明らかとなった。 2)セロトニンによるMBN活動性の調節:時計間の同調に関わることが示唆されているMBNの自発放電と光感度は夜間に増加し、昼は低下するが、視葉への5-HTの微量投与により、MBNの自発放電と光感度が低下すること、5-HTの抑制効果は夜間に増加すること、また抑制からの回復は夜の方が速いことがわかった. 3)蛋白合成系の関与:視葉体外培養系において、5-HT(10mM)は主観的昼の前半(CT3,6時間処理)に約5時間の位相前進を引き起こしたが、この効果はシクロヘキシミド(10uM)の同時投与でほぼ完全に阻害された. これらの結果は、セロトニン系が(1)時計間の同調シグナルを制御すること、(2)蛋白合成系を経由して時計の位相変位を引き起こすこと、を通して左右の時計間の同調機構に関与することを示唆している.
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