1.夜行性のオニグモ、昼行性のハエトリグモおよび昼夜行性のコガネグモの眼の感度と感度のサーカディアンリズムを比較生理学的に調べた。オニグモの眼には感度の高い視細胞のみが存在し恒常暗黒下で顕著な感度のサーカディアンリズムを示した。対照的に、ハエトリグモの眼には感度の低い視細胞のみが存在し感度のサーカディアンリズムを全く示さなかった。他方、中間型のコガネグモの眼には感度の高い視細胞と感度の低い視細胞が存在し、感度の高い視細胞のみが恒常暗黒下で感度のサーカディアンリズムを示した。眼の感度のサーカディアンリズムは前大脳中心体前方の神経分泌細胞群領域または前大脳下部の食道神経環付近に細胞体を持つ神経分泌細胞の情報により視神経を介し遠心的に調節されていると考えられる。 2.コガネグモの視神経から脳光照射に伴い増加する活動電位が記録される。この光応答は前大脳の大部分を切除し上記の細胞体を含まない、視葉と視神経のみからなる標本においても観察される事から、脳内光感受性細胞は眼の感度を調節する視神経遠心性細胞とは別の細胞であり、その光受容部位は視葉領域であると考えられる。最近我々は、視葉内で脳内光感受性細胞の有力な候補と思われる大型の神経細胞から細胞内記録・染色を行う事に成功し現在解析を進めている。コガネグモの脳内光感受性細胞は眼との相互作用により優れた影検知機構を作りだし、影からの逃避行動に関与していると考えられる。 3.ハエトリグモの色覚に関しては1800年代末から議論されてきたが、ショウジョウバエなど生きた餌しか食べないハエトリグモでは報酬学習実験が難しく、ハエトリグモの色覚の有無も確認されない状態が長く続いてきた。我々は、色と熱刺激の組合せに対する嫌悪学習を成立させる事に成功し、ハエトリグモは少なくとも可視領域で青、緑、黄、赤の色紙を色合いにより識別する事を明らかにした。
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