研究概要 |
巨大脳については,例えば視覚系においては形態視が重視され,また学習については報酬学習のようなものが主役を果たすと考えられる.一方,微小脳については,視覚系においては運動視が主役で,学習についても定型行動の微調整や手続き的記憶が中心になるように思われる.人工ニューラルネット分野の言葉で言うと,前者は「空間的パターンの教師あり学習」相当し,後者は「時間的パターンの教師なし学習」にあたる.しかし,後者については,解析の困難さから,従来理論的研究は殆どなされてこなかった.本研究では,主に,ヘブ則および反ヘブ則による時間的パターンの学習について,その理論モデルを検討した. ヘブ学習・反ヘブ学習の最も典型的なものは,シナプス前後の発火が同時に起こった場合には,シナプス効率が増加あるいは減少するというものである.しかし,最近の神経生理学の知見によると,シナプス効率の変化はシナプス前後の発火の時間的関係に依存する.すなわち,シナプス前の発火が先行する場合にはLTPが生じ,逆の場合にはLTDが生じる.このような時間的に非対称な特性をもつ学習は,時系列パターンの学習に重要な意味を持っていると考えられる. 本研究では,時間的に非対称なヘブ学習則を数学的に定式化し,それを用いて,振動的な振舞いをする回路,神経積分器,さらにはザリガニの視覚系に見られるような周期的刺激の周期やパターンを記憶する神経回路,等のモデルを示した.それにより,時間的に非対称なヘブ学習則の持つ機能的意味がある程度明らかになった.
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